表題ですが、至極当然な結末です。医師を過労で駆逐、殲滅していけば、今度は患者の番になるということ。そうならないために何が必要であったのかを考えるところから、始める必要があります。
今回は、こちらを紹介します。
高知新聞の記事です
既に6回のシリーズになっていますが、時間があればしっかり見てほしいと思います。ただこういう場合、すぐに表示されなくなるのも常。なので、一部を抜粋して、残しておこうと思います。
「燃え尽きそうなんやから。一カ月の時間外労働が二百時間近い。もう(妻子のいる)岡山に帰りますわ」
「脳疾患以外の人も救急車やヘリコプターで次々来るんやから。交通事故や転落はもちろん、包丁で胸を刺されたとか、風呂でおぼれたとか、リストカット…」
あまりの忙しさに、研修の大学生から「先生はいつ寝てるんですか。体が慣れるんでしょうか」と驚かれたこともある。
「四十代後半じゃ体がついていかない。老眼も出てきたし」
「急患がどんどん来始めて、このままじゃ、脳外科は皆、倒れるかも…」
一睡もせず、そのまま朝から外来診察へ。患者さんを診ながら、ふっと意識が遠のいたこともあるそうだ。
「だけど、うちの脳外科のトップの先生は、もっとすごいんです。五十代半ばやのに、僕より長時間病院にいるんやから。今、この時間(午後十時すぎ)も間違いなく仕事しとる」
「僕の前に救命救急科でヘリに乗ってたんやけど、三日に一度しか家に帰れんかった。最初のころは時間外が月二百四十時間弱。連日連夜で朝、めまいで起きられんかったことも。僕も動けんなって、昼から出てきたりすることが最近あるから」
残業、一カ月二百四十時間。単純に三十日で割っても一日八時間。殺人的である。
胃潰瘍(かいよう)や血圧の薬、安定剤をいくつも飲んでいるという。しかも、断り切れない学会発表や論文の締め切りもあり、さらに寝られない。
「コーヒーなんかもガブガブ飲む。週のうち、二日だった徹夜が四日になったら、もう持たんでしょう」
実は十九年度、中四国地区の脳外科入局者は、十大学で合計十一人しかいない。高知大も七年ぶりにやっと一人、入局したところだ。
「脳外科も少子高齢化で、新しい人材が出てこない。そしたら、僕らは、いつまでこういう生活を頑張ったらいいんですか? という話ですよね。まさかこんな時代が来るとは、誰も思わなかったんだから」
その端緒は既に書いたように、平成十六年から始まった新卒医の新臨床研修制度だ。以前のように大学の医局に残らなくても、どこで研修してもよくなった。
「研修は好きな所で受けられるとなったら、若い人はやっぱり、都会に出て行きますよね」
それだけでは収まらなかった。「研修医が自由に勤め先を選べるのなら、自分らも」と中堅どころが医局を飛び出し始めたのだ。仕事がきつく給料も安い公立病院の勤務医を辞め、待遇の良い民間病院に出たり、独立して開業するケースが増えた。
人手不足に陥った各大学は、派遣先から医師を引き揚げた。その結果招いたのが、現在の全国的な医師不足である。
昼間は外来と入院患者の対応。そこへ夜中の緊急手術が入ると体は持たない。というわけで、県東部の脳疾患への対応力は衰退。その結果、多くの救急車が最も近い高知医療センターへ向かい始めた。
さらに、脳外科の拠点が近くにあることで頑張っていた周囲の内科系病院も、けいれんや意識障害といった神経系の急患には、最初から腰を引き始めたという。
「患者さんの命を落としてしまったら大変ですから。家族も大病院志向になる。ちょっとぐらい遠くても『設備が整って専門医のいる大きな所へ』と。だから、『急にどうして?』というほど患者さんが増えたわけ」
「室戸にヘリポートができたでしょ」と脳神経外科の溝渕雅之医師(48)。県立安芸病院から脳外科が消える直前、平成十八年二月のことだ。
「あのころから東部の急患が、どんどん来始めたんです。どこから来てるか聞いたら、救急車は安芸方面から。ヘリも、それまであまり来なかった室戸からの要請で、突然のように舞い降りてね。午前中だけで二回、室戸へ飛んだこともあったから」
そうなると、救急車と同じような問題が起きてきた。軽症の患者もヘリで運ばれてくるようになったのだ。
「脳幹出血だから」と老健施設から送られて来た人は、単なる排便性の失神だった。「脊髄(せきずい)損傷」ということで整形外科医が迎えに行ったら、単なる打ち身だったことも。
「そんなのが西から東から三回続いたこともあったからねえ」
軽症患者への対応で消耗してしまうとストレスがたまり、重症患者に全力投球しづらい状況が発生するという。
「救急病院のコンビニ化が問題だって言われてるじゃないですか。それはもう、ひと昔前の話。患者さんが要求しているのは夜も開いている専門店。『おにぎりじゃなくて、シェフの作りたてが食べたい。夜中にわざわざ来たんだから』。そういう人が増えたんです」
例えば耳の調子が悪い患者に「当直医は外科です」と言うと、「じゃあ、耳鼻科の先生が来るまで待ちます」。自宅待機の当番医が呼び出されることになる。
「デパート化ですよ。夜中の救急処置なのに、何から何まで担当科の医師が呼ばれる。そんなことしてたら皆、へとへとになってしまうのに」
彼の話は高知医療センター全体を覆う疲弊感に広がった。
高知医療センターのキャッチフレーズは「患者さんが主人公」。
「それはその通り。時間が無限にあればそれもできるけど、今の現実とは、懸け離れてるわけです。そういうのが嫌になって、ここだけでなく、日本のあちこちで医師がひっそり消えていっている。僕の言ってることはおかしいですか?」
いろいろ、考えるところが多いと思っています。制度はひとつの問題です。政策も、ひとつの問題といえます。しかしそれ以上に、患者の行動が問題とされる部分は、かなり大きいと考えなければなりません。もはや、地域の医師は有限な存在、かつ立ち去ってしまえばもう戻ってこない存在です。浪費することは、絶対許されないはずなのですが。しかしこうした文章を見て常に思うことは、現実に起こっている問題への無関心と、その原因に自分もまたなってしまっている事実に対する無責任な態度が、やけに目に付いてしまうことです。
このままの状態でいけば、遅かれ早かれ、この地域における医療は破局を迎えます。そのことに対する危機感が、どうにも希薄に思えるのは気のせいでしょうか・・・何もこの地域だけではなく、この国全体に言えることです。引用した文章の最後に「患者さんが主人公」と書いてありますが、このスローガンを徹底的に突き詰めていったことの結果が、この現実です。医師の都合は全て無視、患者は何を言っても許される、ではいずれ医師が愛想をつかして現場を立ち去ります。既に半分、そうなってしまっているという点だけで十分に思えます。
もう一回書いておきます。
医師を過労で駆逐、殲滅していけば、今度は患者の番です。
< 付記 >
今日、夜8時に教育テレビで医療に関する番組をやっていました。何が医師を追い詰めているのか・・・という極めて重要な問題に、30分の限定はありますがスポットを当てた良い番組だと思います。前半は、軽症の患者が救急医療の現場を食いつぶしている現実。後半は、その現実を改めようとする、丹波の新しくて希望の持てる試み。後半部分については、過去紹介しています・・・(こちらです)
「たらい回し」連発の総合と比べて、ずいぶんまともでしたが、こういうのを教育でしか放送できないという時点で、やはりNHKにも問題はあるのかもしれません。
今回は、こちらを紹介します。
高知新聞の記事です
既に6回のシリーズになっていますが、時間があればしっかり見てほしいと思います。ただこういう場合、すぐに表示されなくなるのも常。なので、一部を抜粋して、残しておこうと思います。
「燃え尽きそうなんやから。一カ月の時間外労働が二百時間近い。もう(妻子のいる)岡山に帰りますわ」
「脳疾患以外の人も救急車やヘリコプターで次々来るんやから。交通事故や転落はもちろん、包丁で胸を刺されたとか、風呂でおぼれたとか、リストカット…」
あまりの忙しさに、研修の大学生から「先生はいつ寝てるんですか。体が慣れるんでしょうか」と驚かれたこともある。
「四十代後半じゃ体がついていかない。老眼も出てきたし」
「急患がどんどん来始めて、このままじゃ、脳外科は皆、倒れるかも…」
一睡もせず、そのまま朝から外来診察へ。患者さんを診ながら、ふっと意識が遠のいたこともあるそうだ。
「だけど、うちの脳外科のトップの先生は、もっとすごいんです。五十代半ばやのに、僕より長時間病院にいるんやから。今、この時間(午後十時すぎ)も間違いなく仕事しとる」
「僕の前に救命救急科でヘリに乗ってたんやけど、三日に一度しか家に帰れんかった。最初のころは時間外が月二百四十時間弱。連日連夜で朝、めまいで起きられんかったことも。僕も動けんなって、昼から出てきたりすることが最近あるから」
残業、一カ月二百四十時間。単純に三十日で割っても一日八時間。殺人的である。
胃潰瘍(かいよう)や血圧の薬、安定剤をいくつも飲んでいるという。しかも、断り切れない学会発表や論文の締め切りもあり、さらに寝られない。
「コーヒーなんかもガブガブ飲む。週のうち、二日だった徹夜が四日になったら、もう持たんでしょう」
実は十九年度、中四国地区の脳外科入局者は、十大学で合計十一人しかいない。高知大も七年ぶりにやっと一人、入局したところだ。
「脳外科も少子高齢化で、新しい人材が出てこない。そしたら、僕らは、いつまでこういう生活を頑張ったらいいんですか? という話ですよね。まさかこんな時代が来るとは、誰も思わなかったんだから」
その端緒は既に書いたように、平成十六年から始まった新卒医の新臨床研修制度だ。以前のように大学の医局に残らなくても、どこで研修してもよくなった。
「研修は好きな所で受けられるとなったら、若い人はやっぱり、都会に出て行きますよね」
それだけでは収まらなかった。「研修医が自由に勤め先を選べるのなら、自分らも」と中堅どころが医局を飛び出し始めたのだ。仕事がきつく給料も安い公立病院の勤務医を辞め、待遇の良い民間病院に出たり、独立して開業するケースが増えた。
人手不足に陥った各大学は、派遣先から医師を引き揚げた。その結果招いたのが、現在の全国的な医師不足である。
昼間は外来と入院患者の対応。そこへ夜中の緊急手術が入ると体は持たない。というわけで、県東部の脳疾患への対応力は衰退。その結果、多くの救急車が最も近い高知医療センターへ向かい始めた。
さらに、脳外科の拠点が近くにあることで頑張っていた周囲の内科系病院も、けいれんや意識障害といった神経系の急患には、最初から腰を引き始めたという。
「患者さんの命を落としてしまったら大変ですから。家族も大病院志向になる。ちょっとぐらい遠くても『設備が整って専門医のいる大きな所へ』と。だから、『急にどうして?』というほど患者さんが増えたわけ」
「室戸にヘリポートができたでしょ」と脳神経外科の溝渕雅之医師(48)。県立安芸病院から脳外科が消える直前、平成十八年二月のことだ。
「あのころから東部の急患が、どんどん来始めたんです。どこから来てるか聞いたら、救急車は安芸方面から。ヘリも、それまであまり来なかった室戸からの要請で、突然のように舞い降りてね。午前中だけで二回、室戸へ飛んだこともあったから」
そうなると、救急車と同じような問題が起きてきた。軽症の患者もヘリで運ばれてくるようになったのだ。
「脳幹出血だから」と老健施設から送られて来た人は、単なる排便性の失神だった。「脊髄(せきずい)損傷」ということで整形外科医が迎えに行ったら、単なる打ち身だったことも。
「そんなのが西から東から三回続いたこともあったからねえ」
軽症患者への対応で消耗してしまうとストレスがたまり、重症患者に全力投球しづらい状況が発生するという。
「救急病院のコンビニ化が問題だって言われてるじゃないですか。それはもう、ひと昔前の話。患者さんが要求しているのは夜も開いている専門店。『おにぎりじゃなくて、シェフの作りたてが食べたい。夜中にわざわざ来たんだから』。そういう人が増えたんです」
例えば耳の調子が悪い患者に「当直医は外科です」と言うと、「じゃあ、耳鼻科の先生が来るまで待ちます」。自宅待機の当番医が呼び出されることになる。
「デパート化ですよ。夜中の救急処置なのに、何から何まで担当科の医師が呼ばれる。そんなことしてたら皆、へとへとになってしまうのに」
彼の話は高知医療センター全体を覆う疲弊感に広がった。
高知医療センターのキャッチフレーズは「患者さんが主人公」。
「それはその通り。時間が無限にあればそれもできるけど、今の現実とは、懸け離れてるわけです。そういうのが嫌になって、ここだけでなく、日本のあちこちで医師がひっそり消えていっている。僕の言ってることはおかしいですか?」
いろいろ、考えるところが多いと思っています。制度はひとつの問題です。政策も、ひとつの問題といえます。しかしそれ以上に、患者の行動が問題とされる部分は、かなり大きいと考えなければなりません。もはや、地域の医師は有限な存在、かつ立ち去ってしまえばもう戻ってこない存在です。浪費することは、絶対許されないはずなのですが。しかしこうした文章を見て常に思うことは、現実に起こっている問題への無関心と、その原因に自分もまたなってしまっている事実に対する無責任な態度が、やけに目に付いてしまうことです。
このままの状態でいけば、遅かれ早かれ、この地域における医療は破局を迎えます。そのことに対する危機感が、どうにも希薄に思えるのは気のせいでしょうか・・・何もこの地域だけではなく、この国全体に言えることです。引用した文章の最後に「患者さんが主人公」と書いてありますが、このスローガンを徹底的に突き詰めていったことの結果が、この現実です。医師の都合は全て無視、患者は何を言っても許される、ではいずれ医師が愛想をつかして現場を立ち去ります。既に半分、そうなってしまっているという点だけで十分に思えます。
もう一回書いておきます。
医師を過労で駆逐、殲滅していけば、今度は患者の番です。
< 付記 >
今日、夜8時に教育テレビで医療に関する番組をやっていました。何が医師を追い詰めているのか・・・という極めて重要な問題に、30分の限定はありますがスポットを当てた良い番組だと思います。前半は、軽症の患者が救急医療の現場を食いつぶしている現実。後半は、その現実を改めようとする、丹波の新しくて希望の持てる試み。後半部分については、過去紹介しています・・・(こちらです)
「たらい回し」連発の総合と比べて、ずいぶんまともでしたが、こういうのを教育でしか放送できないという時点で、やはりNHKにも問題はあるのかもしれません。
いや、今度お会いしたら教えて差し上げようかと思いましたが、こんな田舎の新聞の記事にまで目を通していただけたとは驚きです。
あの連載読むと、今の医師の勤務状態がどれだけひどいかに愕然としますね。
あの連載読むと、今の医師の勤務状態がどれだけひどいかに愕然としますね。
< あなみん様 >
医療崩壊関係で、いろいろネットサーフィンしている間に、見つけた文章なのです(苦笑)。概して地方紙の方が、全国紙やテレビよりまともな報道をしているという、ひとつの例ではないかと思います。この連載、もっと続くようです・・・今後も見逃さない方向でいたいものです。
医療崩壊関係で、いろいろネットサーフィンしている間に、見つけた文章なのです(苦笑)。概して地方紙の方が、全国紙やテレビよりまともな報道をしているという、ひとつの例ではないかと思います。この連載、もっと続くようです・・・今後も見逃さない方向でいたいものです。
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