QMA、その他ゲーム以外のことも、つれづれなるままに書いていこうと思います。どんな文章になることでしょうか。
月の光に照らされて
2月18日を忘れないように
2007-02-18-Sun  CATEGORY: 医療崩壊
唐突ですが、今日は2月18日です。昨年のこの日に何があったか、自分たちは決して忘れないようにしたいと思い、この文章を書いています。主張したいことは、たった一つです。

我々は福島事件で逮捕された産婦人科医師の無罪を信じ支援します

昨年2月18日、ひとりの産科医が逮捕されました。妊婦を無理な手術により死なせた、という理由でした。しかしこの逮捕に対し、多くの方が(主に医療者の皆さんですが)抗議の声をあげました。理由としては、このようなものが挙げられます。

彼が執刀した妊婦の方は、きわめて稀な症例でした。癒着胎盤というもので(自分は専門外なので仕入れた情報によってしか確からしいと言えませんが)、普通の産科医が一生仕事しても経験しないかもしれない、深刻なものでした。しかも彼はひとりで手術を行う必要がありました(文字通り、ひとりしかいなかったのです)。
困難な状況の中お子さんは出産できましたが、妊婦さんを助けることは出来ませんでした。そのような状況で(つまり、何割かは助からない危険な状況で)全力を尽くした医師を、結果を理由として指弾した場合、今後医療者は手術のたびに逮捕を覚悟しなければなりません。
それは別の悪影響を及ぼします。まず医師のなり手がいなくなります。重要なことなのですが、全ての医療行為にはリスクが存在します(患者側が見落としたり、わざと見ないようにしている部分ですが)。産科は特にリスクが高いそうです。何かあったら罪に問われる状況で、医師が満足に手術できるか、きわめて疑問です。この事件は、これから医学部を受験する学生ですらよく知っているそうです。今後産科医の数はますます減ることが予想されます。
そして・・・医療者はリスクを回避するため、難易度の高い手術を避けるようになります。または、難しい症例の患者を忌避するようにもなります。その結果、社会全体として受けられる医療の水準は低くなります。このことについて、医師を責めるのは間違いです。誰だって逮捕されるのは嫌なはず。人を助ける仕事をした結果が逮捕と起訴(現在裁判になっています)というのでは、医師なんて続けるほうが馬鹿らしいというものです。

こうなった原因はいくつかあります。まず、政策が決定的に間違っています。政府は一貫して医療費を圧縮する方針でいますが、普通コストを減らせば提供されるサービスの質は低下します。現場の勤務医は患者側が想像する以上に過酷な環境で仕事をしています。労働基準法などまったく無視されていて、現場は既に疲弊しきっているようです。今の与党がこの方針を継続することはほぼ確定と見られており(あらゆるニュースが、社会福祉の切捨てを示唆しています)、改善は期待できません。
果たしてこのような状況で、患者側が享受できる医療の質が改善できると思えるのでしょうか。はっきり言えば絶望的です。政策が改善されない限り、もっと医療は質が低下します。実際それは、ほぼ現実のものになっています。現場から医師がいなくなる理由の一つに、勤務条件の過酷さがあります。
ここで話を福島の事件に戻します。今回の症例に対応するためには、もっとスタッフの数が必要でした。設備も、それなりのものが求められたはずです。それを実現するには、現実の医療費が少なすぎるのです。これから先は医療費がもっと減らされかねず、もっと子供を産む環境が悪化します。これは特定の個人に責を帰すべきではなく、政策の問題として考えるべきです(端的に言えば、別の人が同じ事をやったとして無事両方とも救えたかどうかは判りません。こういう場合、現場の責任にしても何も解決しません)。

しかしそうしたことを、外部者は正しく理解しようとしません。特にメディアの責任は重大だと思っています。こと医療に関して(他でもそうなのですが)、メディアは何も知らないくせに調べようともせず、やっていることは犯人探しだけ。現場の医療者だけ標的にして攻撃を加えたところで、同じことは何度でも(環境を変えない限り)何度でも起こります。
昨年10月、奈良県で妊婦が必要な手術を受けられずに死亡したことが明らかになりました。この出来事は、上で書いたことを正しく理解している人たちなら、起きるべくして起きた惨事と考えたでしょう。しかしメディアはこぞって、現場の医師を犯罪者に仕立て上げ、社会的に再起不能な水準まで貶めました。この事件も、難しい症例に陥った妊婦の方を助けうる施設が今ではほとんどないという事実、そうなったのは政府が医療費を抑制し続けてきた結果であることを再確認するべきものでしたが。
むしろ、メディアはこの結論にたどり着くのを恐れているように感じます。つまり、彼らにとって最大のタブーは与党批判です。与党の政策を正面から批判することは出来ないため、現場の医療者を攻撃して自分は安全なところにさっさと逃げてしまう、どうしようもない卑怯な精神態度。あるいは、視聴率や販売部数が目当てという商業主義(一般的によく言われます)でしょうか。医師を攻撃するのは商売になる、という卑劣な思考回路。

しかしそれ以上に重要な問題があります。政府の政策も、メディアの劣化も、それを是認し続けてきた者がいたからこそ起こってしまっているのです。言うまでもありませんが、我々患者の側がその程度だから、です。残念ですが、それが結論です。
政府が医療に限らず、福祉関連予算を圧縮しているにもかかわらず、それを容認してきたこと。他人の悪口ばかりがうまい、品のないメディアをボイコットにより淘汰しなかったこと。これらは全て、自分たち患者側の責任です。何度でも言いますが、その程度の一般有権者(そして、その程度の患者)だったからこそ、こうなってしまったのです。
であれば、方法などたった一つしかありません。それを悔い改め、行いにつなげる以外、医療に関する問題の解決など(他の問題もですが)不可能です。現在、医療は崩壊寸前まで来ています。事情を知る人たちにとっては、この言葉すら生ぬるく感じるでしょう。社会的に医師を粗末にし続けたことの結果として、現在の惨憺たる状況があります。その過程で、今回話題にした医師の逮捕が起きてしまいました。

その医師は、今裁判の真っ只中です。もし有罪になるようなら、もっと多くの医師が絶望して場を立ち去るでしょう。そうならなくても、既に医療者の士気は絶望的なまでに低下してしまっています。だとしても、罪なくして罪を宣告されるのは正義に反します。それが、今回の話となった最大の理由です。

このような話をこの日記で書くのは初めてです。ですが、社会的にきわめて重要なことなので(全ての人にとって、医療の崩壊は深刻なものなので)、書きとどめておこうと思います。多くの方が、いろいろ考えるきっかけにしてくださればと考えています。

最後に、もっと詳しく医療の現状について、この事件について書いているサイトを紹介します。こちらをご覧になれば、現場の疲弊、日々悪化する環境など、判っていただけると確信しています。

ある産婦人科のひとりごと → http://tyama7.blog.ocn.ne.jp/obgyn/

新小児科医のつぶやき → http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20070218

これらのサイトのリンク先も含め、一通りご覧になってくださればと思います。また、独自で調べてみようという方のために、いくつかのヒントを差し上げます。

今回の(不当)逮捕について → 「福島」「産科」「逮捕」で検索

奈良の妊婦死亡事件について → 「奈良」「妊婦」「死亡」で検索
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コメント

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この運動がきっかけになると良いのですが
コメントお弟子 | URL | 2007-02-18-Sun 23:01 [EDIT]
この運動に私も強く賛同致します。
自分はblog発信していないのでこういったコメントでしか協力できませんが、blog持っている方のこういった努力が実ることを期待致します。
コメントかぼ | URL | 2007-02-18-Sun 23:22 [EDIT]
はじめまして。2月18日賛同ブログをたどってきました。私はブログを持っていないのですが、mixiの日記に、鴛泊愁さんの2月18日の文章を引用させていただきました。無断ですみません。非医療者からの見方で、とてもわかりやすくまとまっていましたので・・・・ほとんど何もできませんが、こういうことが力になると少しだけ期待してしまいます。
コメント海外逃亡医 | URL | 2007-02-19-Mon 00:14 [EDIT]
26万人の日本の医師の日本国に対するメッセージの一つの方法が、『逃散』でありますが、諦めずに声を出し続けることも、最後の残された一つの方法であると信じております。

政府の方針転換が一日遅れるごとに、その倍以上の日数が復興にはかかると思われますが、こうやって主張をしていくことが効を奏することを期待しております。
はじめまして
コメントDr. I | URL | 2007-02-19-Mon 01:55 [EDIT]
はじめまして、循環器内科医のDr. Iと申します。
えーっと、医療関係者ではない方ですよね。

非常に正しく理解をされておられると思います。
皆さん、その位理解していただけると、医師としても助かるのですが。

TBもさせて頂きました。
今後とも、よろしくお願い致します。
管理人のみ閲覧できます
コメント | | 2007-02-19-Mon 17:55 [EDIT]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
凄いです
コメント一般人 | URL | 2007-02-19-Mon 22:11 [EDIT]
論理的かつ歯切れのいい文章で
長文にも拘らず一気に読ませて頂きました。
管理人さんの文章力が羨ましいです。

福島県警と検察が起こした今回の事件の
一刻も早い理性的な解決を願ってやみません。
遅れましたが、お返事です
コメント鴛泊愁 | URL | 2007-02-24-Sat 20:55 [EDIT]
< コメントを下さった皆様 >

多くのコメント、感謝です。多分その何十倍の方が見てくださったと思っています。この日記を見る方は、ほとんどが患者側に属する人と考えています。そうした皆さんにとって、どのようにこの文章が映ったか・・・いい影響が出てくれると嬉しいのですが。

今回のことは、ずいぶん前から考えていました。この事件について、コメントする機会が欲しかったとも思っていましたので、便乗させていただいた次第です。なお、自分がこの事件を知ったのは、昨年6月。偶然でしたが、知らずに済ませていいものではないので。以前から考えがあったことが多かったので、文章は書きやすかったです。

こんな感じで文章を書く機会は、多分また来ると思います。そのときまた、コメントを寄せてくださればと考えています。皆様の未来が、良いものでありますように。
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